ミュージック・ペンクラブ・ジャパン
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Popular Review

- 最新号 -

ALBUM Review

Andrea Wolper
WANDERLUST

Moonflower Music MM001

 ニューヨーク・ベースのヴォ―カリスト、作曲家、アレンジャーのアンドレア・ウォルパーの4枚目の作品、1997年にセルフ・タイトルの初アルバムを発表して以来,2005年の「The Small Hours」、2011年の「Parallel Live」に次ぐ13年振りの新作だ。といっても引退していたわけではなく、ニューヨークをはじめ各地でのライヴ活動、作編曲家でもあるので他のミュージッシャンとの共演やお手伝い、物書きで写真家でもあるのでその方面の仕事も忙しかったという。初期の2枚のアルバムでは、「You’d Be So Nice To Come Home To」、「Angel Eyes」、「Left Alone」、「Skylark」等スタンダードの曲を取り上げていたが、今回は、タイトルの「Wanderlust(漂白への願望)」が示すように7曲の自作曲とレイ・チャールスとリック・ワードの「Light Out Of Darkness」、カントリーのウエイン・カーソンの「Dog Day Afternoon」、キャロル・キングの「Been To Canaan」、スティングの「I Burn For You」とアビー・リンカーンの「The Music Is the Magic」と新し目のナンバーをチャールス・バーンハム(vin)ジェフ・レダーラー(cl,fl)、ジョン・デ・マルチーノ(p)、ケン・フィリアーノ(b)、マイケル・タ・トンプソン(ds)の伴奏でヴァイオリンをうまく使った彼女流の個性的で斬新なアレンジで自由に歌っている。ジョン・ディ・マルチーノのピアノだけで歌う自作バラード「Still Life」が印象的で、まだまだ進化を続けるアンドレアだ。(高田敬三)

ALBUM Review

Jane Scheckter
I’ll Take Romance

Doxie Records DOX 105

 ジェーン・シェクターは、ニューヨークのジャズ・キャバレー・シーンでその年に活躍したアーテイストに与えられるBISTRO賞を一度受賞、MAC賞には5度もノミネートされているベテラン・ヴォーカリスト。本アルバムは、1988年に発表した初アルバム「I’ve Got My Standards」以来、5作目の作品。長いキャリアの割にレコードの数は少ないが、彼女は、初期の頃はファッション・デザイナーの仕事もして映画俳優でもあったという。12年振りの本アルバムでは、前回と同じくピアノとアレンジャーのテッド・ハースを中心に、ジェイ・レオンハート(b)ピーター・ガント(ds)ウォ―レン・バッシェ(cnt,flhn)という錚々たるメンバーに囲まれてグレート・アメリカン・ソングブックから聞き慣れた曲を中心にベースを弾きながらスキャットで歌うジェイ・レオンハートの歌も入る出だしから、ウオーレン・バシェのリリカルなコルネット、フリューゲル・ホーンの入る5曲、若手の歌手、ニコラス・キングとのデュエットの「Isn’t It A Pity」も含め変化にとんだ17曲をスインギーに、あるいは、ピアノのとバラードでしっとりと歌う、ロマンチックな気分でライヴを聞いて居るような心地良い作品だ。(高田敬三)

ALBUM Review

ほ・ん・の・り/本多俊之&野力奏一

ピットインミュージック PILJ-0017

 本多俊之(サックス奏者)と野力奏一(ピアニスト)の珠玉のDUOアルバム(2曲にピアニストの本多尚美がゲスト参加)。美しい素晴らしいアルバムである。稀有のDUO名演と言っても、いいだろう。全10曲を収録。本多のオリジナル3曲、野力のオリジナル2曲、チック・コリア、ウェイン・ショーター、ジャコ・パストリアス、バート・バカラック、アイルランド民謡を収録している。本多と野力は、これらの音楽の中に潜んでいる音楽の豊かさを思慮深く、丹念に、雄弁に伝えてくれる。選曲も曲順も考え抜かれたものになっている。
 さて、本多俊之と野力奏一は、1957年生まれの同い年である。初めて出会ったのは、19歳の時。本多の父親は、ベーシスト&ラジオ・ジャズ番組の人気DJだった本多俊夫。野力の父親は、サックス奏者&京都JAZZ最高峰の「ベラミジャズオールスターズ」のバンマスだった野力久良である。二人の父親は、日本ジャズ界で有名な最重要人物。本多と野力のオリジナルは、ジャズだけでなく、優れた映画音楽も残している。ということで、二人の共通点は、とても多い。そして、本多と野力の「洗練されたサウンドの源流」には、チック・コリア(リターン・トゥ・フォーエバー)、ハービー・ハンコック(ヘッド・ハンターズ)、ウェイン・ショーター(ウェザー・リポート)、キース・ジャレット、そしてマイルス・デイヴィスがいる。彼らの音楽のDNAが、本多と野力の中に、しっかりと流れているのだ。
 冒頭の「CC-REX」は、敬愛するチック・コリアに捧げた本多のオリジナル。本多と野力の一音一音が心地良い。本多のソロは、情熱的だ。「クリスタル・サイレンス」は、本多が愛してやまない『リターン・トゥ・フォーエバー』(1972年)のデビュー作に収録されていた曲。チック・コリアとジョー・ファレルを彷彿とさせる名演である。研ぎ澄まされた野力と本多の音が綺麗だ。「マルサの女」(本多作曲)は、ご存じ伊丹十三監督の同名の映画(1987年)の主題歌。ここには、本多尚美(ピアノ)も加わった三人による熱い圧倒的な演奏である。「Haru Overtune」(野力作曲)は、森田芳光監督の映画『ハル』(1996年)の序曲。普段は、ソロ・ピアノで演奏。初めてのDUO演奏となったが、本多が好演し、ドラマチックな仕上がりとなった。「S.B.C.マジック」は、本多が書いた“新宿文化センター(新宿ピットインとゆかりの深い場所+本作の録音場所)”に捧げた曲。アレンジは、野力。また、この曲にも、本多尚美(ピアノ)が加わっている。「Beauty and the Beast」は、ウェイン・ショーターの曲。まさにハービー・ハンコックとウェイン・ショーターを彷彿とさせる素晴らしい演奏である。野力のファンキーなピアノと味わい深い本多のサックスがカッコ良い。「風町」(野力作曲)は、森田芳光監督の映画『キッチン』(1989年)の挿入歌。野力のセンスあふれる美旋律曲。本多の抑えた演奏と野力の明るいピアノが秀逸。最後は、ご存じ「ダニー・ボーイ」。二人が、メロディを奏でるだけで、心に沁みる。アルバムの最後にふさわしい名演である。アルバム全編を通して流れる優しく美しい音の連なり。メロディアスで、創意工夫のある素晴らしい二人のアドリブ(即興演奏)と表現力。なんと素敵なアルバムなのだろう。(高木信哉)

ALBUM Review

イーグルス
「トゥ・ザ・リミット:エッセンシャル・コレクション」

WPCR-18660-62 (ワーナーミュージック)

 いわゆるベスト盤の類はこれまでに何種類も出ている。‘現役’時代の「グレイテスト・ヒッツ 1971-1975」(10曲:1976年)「グレイテスト・ヒッツ VOL.2」(10曲:1982年)に解散後の「ベスト・オブ・イーグルス」(13曲:1987年)、CD時代になってからも再結成の直後に合わせた「ヴェリー・ベスト・オブ・イーグルス」(17曲:1994年)や「パーフェクト・ヒッツ 1971-2001」(17曲:2001年)、そして2003年の「ベスト・コレクション」はCD2枚(33曲)+DVD1枚と一気にボリューム・アップ。
 またこの間には番外編というか2000年に4枚組のマニアック?な「イーグルス・ヒストリーBOX 1972-1999」も出ており、CD1~CD3に未発表曲も含む41曲を、CD4には当時最新のライヴ音源(1999年大晦日のL.A.公演:12曲)を収めたボックス・セットだったが、今回は約20年ぶり‘通常’のベスト盤でしかも3枚組。1972年~2020年にかけてのライヴ音源(CD3に16曲)も含む全51曲と既存音源の収録数では一番多く、‘決定版コレクション’と銘打たれている。
 米チャートへのランク・インは24曲あるが調べると「ふたりだけのクリスマス」など2曲分の姿は見えないものの50年近くに及ぶイーグルスの歴史は簡潔にほぼ掌握出来るだろう。そして思う。各人がソロを出したり、また解散~再結成を経ても人気は変わらず、お馴染みのレパートリーはすでにスタンダード化して世代やジャンルをも超えて広く親しまれているというロック・グループは1960年代を起点とするビーチ・ボーイズと、1970年代を起点とするこのイーグルスぐらいではないかと。改めてアメリカの2大巨頭だと思う。
 というところでまたふとした思いが頭を巡る。昨今の音楽業界の状況を鑑みればこのようにCDというパッケージ商品として彼らのベスト盤が出るのはひょっとしてこれが最後になるのではないか?とも。(上柴とおる)

ALBUM Review

ザ・ベーコン・ブラザース
「バラッド・オブ・ザ・ブラザース」

BSMF-8083(BSMFレコーズ)

 マイケル・ベーコン(1949年12月22日生まれ)とケヴィン・ベーコン(1958年7月8日生まれ)は映画界でその名も知れた著名な兄弟。マイケルは映画音楽の作曲家としてエミー賞を受賞。ケヴィンは言わずと知れた「フットルース」(1984年)の主演で脚光を浴びたスター俳優(デビュー作は「アニマル・ハウス」)で2009年には「ゴールデングローブ賞」主演男優賞を受賞。
 そんな二人は一方でコンビを組んでベーコン・ブラザースとしても活動しているのだが、単なる余興では全くなくて‘本格的’と言うのも憚られるほどにロック・ミュージシャンそのもの。何しろコンビとしてのキャリアは1997年のデビュー作から四半世紀以上にも及び、今回の意欲的な新作アルバムは通算12枚目にもなるのだから趣味や余技の域であるはずがない。マイケルは1970年代前期にグッド・ニュースという男性デュオで1枚、ソロとしても2枚のアルバムを出しているほど(起点は音楽かと)。
 それにしてもこの新作のクォリティーの高さと存在感には感嘆させられる。1990年代のオルタナ・ロックや1960年代のモータウン・ビート、フォーク、カントリー、サザン・ソウル~サザン・ロック。。。さまざまなルーツへの敬愛と愛情。豊かな土壌から生み出されるベーコン・ブラザースの音楽に包み込まれてしまいそう。ジャケットの色合いとデザインも渋くていい♪(個人的には1960年代を感じさせる)。
 ちなみに7曲目「We Belong」はパット・ベネターのヒット曲(1984年:BB誌5位)のカヴァー♪ (上柴とおる)

ALBUM Review

ハッスルズ「ザ・ハッスルズ」

ODRIM-1031 (オールデイズ レコード)

 17年ぶりの新曲「ターン・ザ・ライツ・バック・オン」をリリース(2024年4月10日)したビリー・ジョエル。1971年のファースト・アルバム「コールド・スプリング・ハーバー」からはもう53年にもなるのだが、実はそれ以前からプロとしてのキャリアを積んでいたことを知るファンは多くないだろう。全く実績を残せないまま過ごした時代があった。
 ソロ・デビューの前年(1970年)にジョン・スモール(ドラマー)と組んだデュオ、アッティラ(Attila)としてアバンギャルドでプログレッシヴ・ロック的な要素も感じさせるアルバムを1枚出しており、さらに遡って1960年代後期にはそのジョン・スモールもメンバーだった5人組のハッスルズでアルバムを2枚出している。
 その1作目(1968年)が今回の復刻盤である。全く売れなかったが先行シングル「You've Got Me Hummin'」は辛うじて1週のみ1967年11月25日付BB誌で112位に顔を出している。ハッスルズのチャート実績はこれのみ。この曲はダブル・ダイナマイト’の異名を持つR&Bデュオ、サム&デイヴのヒット(1967年1月14日付:77位/R&B部門:7位)のカヴァーだが、R&Bを‘アート・ロック’風にカヴァーするというのは当時のヴァニラ・ファッジのスタイルだが(シュープリームスの曲を大胆にアレンジ)ハッスルズには彼らからの影響が大かと(とりわけビリーのオルガン奏法♪)。
 この時期のサイケデリックや初期アート・ロックを好むファンには是非、推奨したい仕上がりのアルバムだが、一番の聴きものはビートルズやハーブ・アルパートのカヴァーでもおなじみの「A Taste of Honey」だろう。ヴァニラ・ファッジ+ヤング・ラスカルズといった趣で1970年代からこのアルバムを中古の米盤で所有していた当方も大のお気に入り。
 翌1969年には2作目を出すが解散。アッティラの後、ソロに転向して成功をおさめることになるのだが、ハッスルズ時代からの仲間であるジョン・スモールはその後もビリーのライヴ盤の制作などをサポートしており、二人の友情は続いている。(上柴とおる)

LIVE Review

カフカ違式:詩と即興のライブコンサート

4月12日 赤坂 ゲーテ・インスティトゥート東京 ホール

 プラハ生まれの作家であるフランツ・カフカの生誕140年と没後100年を記念して行われてきた「カフカ・プロジェクト」の締めくくりとなる、「カフカ・フェスティバル」の関連プログラムとして実に興味深いライブ・コンサートが行われた。「カフカ鼾」のメンバーであるジム・オルークと山本達久に、巻上公一が参加したテンポラリーなバンド「カフカ違式」によるステージだ。ホール前のホワイエにはカフカの作品を基にしたVRインスタレーション「変身 - VRwandlung」もあり、パフォーマンスが始まる前からカフカに酩酊できた。その気分を全身にたたえての、ライブ体験だ。巻上は朗読(カフカ『夢・アフォリズム・詩』の引用テキストに加え、自作の詩も)やヴォーカルのほかにテルミン、コルネットなどでも色彩感豊かな音世界をまき散らす。そしてジムは主にシンセサイザーを使ってソファのように暖かく柔らかな音の群れを敷きつめ、山本がドラムスを実に繊細に、微風のごとき軽やかさで鳴らす。結果、生まれたのは、冒険的でありながらも実に軽妙な世界。3人の音楽、そしてカフカの文学にさらに関心が湧いてきた。(原田和典)

写真クレジット:Ⓒ片岡陽太

LIVE Review

主演女優が歌う『「コザママ♪ うたって! コザのママさん!!」サントラ Live!』

4月14日 高円寺メウノータ

 音楽映画であり、青春映画であり、ある程度の人生経験を積んだ大人の映画でもあり。つまり幅広い層に訴えること間違いなしの映画が、ただいま全国上映中の『コザママ♪ うたって! コザのママさん!!』(中川陽介・監督)である。物語だけではなく、エリカ・バドゥやロバート・グラスパーを通過したR&Bというべきサウンドトラックも(沢田穣治が担当)、実に手ごたえに満ちているのだが、なんとその曲たちを中心にしたライブで楽しめるというぜいたくな一夜が高円寺で催された。。沢田の図太くうねるベース、エフェクターでさまざまな音を出すいっぽうで生音の鳴りも最高な中西文彦のギターが絶妙なバックグラウンドを設定し、映画でも重要な役柄を演じていた上門みきやjimamaが水を得た魚のように生き生きとした歌唱を繰り広げるのだから、満員の場内の盛り上がりは高まりばかりだ。「燃える街」に描かれた情景(中川監督が作詞)を思い浮かべて差別や憎しみのない世界を願い、キーボードやドラムも生かしたサントラ盤のそれからギター主体に再アレンジされた「100回目のキス」のつやっぽさに酔いしれていると、いつしか自分が『コザママ♪』のエキストラの気分になってくる。jimamaが、活動初期の楽曲「ガーリック トースト」を届けてくれたのも嬉しかった。
(原田和典)